彼と知り合ったのは20年近く前のことだ。私たちは同い年で、当時30代だった。カメラマンで30代といえば、まだまだ駆け出しで生意気盛りな時である。当時、私は一人前になったつもりで生意気に写真を語っていた。今思えば自分の無知さ加減が恥ずかしい。そんな時に彼と出会った。
今も昔もカメラマン同士の会話といえば、お互いの近況を探り合ったり、自分はお前より稼いでいるみたいな見栄の張り合い等、くだらない会話がほとんどで、私も含めカメラマンとは友人になれないなと思っていた。しかし彼は他のカメラマンと何かが違っていた。お互いに自分のことはあまり話さずとも認め合うことができた。お互い認め合えれば、見栄を張ることもないわけだ。お互い法人の2代目という境遇も一緒で、私の良き理解者になってくれた。
彼の作品はホントに美しい。どうやっても私にはつくることができない美しい世界観がある。それは仕事の作品にも言えることで、彼の撮る商業写真はプロから見てもため息が出る。
以前、カメラマンと写真家の違いについて書いたことがある。写真家は、自分の写真を売るという一本勝負だ。写真家本人が男でも女でも、性格が良くても悪くても関係ない、極端な言い方をすれば作品さえ良ければいいのである。一方、カメラマンは、注文された写真を撮るのが仕事なので、注文されなければ仕事は発生しない。技術や経験だけでなく、クライアントが注文しやすいカメラマンでなければ仕事はもらえないのだ。つまり人柄もカメラマンにとって重要な要素といえる。
彼はまさに、技術も経験も人柄も、カメラマンの教科書のような人物だと思う。私のところの若いカメラマン達も難易度の高い撮影を前にすると「古屋さんなら簡単に撮影しちゃうんだろうな」と言っている。
嬉しいことに彼はダークルームにもよく顔を出してくれる。ダークルームのお客様はこの顔を覚えておいて、見かけたら声を掛けるといい。私にとって古屋洋一郎とは、お互い認め合う存在というより、今でも私の一方的な憧れの対象なのかもしれない。