「農業に休日を!」シンプルで力強いメッセージは、AIを搭載した自動潅水施肥装置「ゼロアグリ」製造会社のスローガンだ。これまで手作業で行っていた栽培技術を、データ化してAIで分析しパッケージング化し提供する。農業にAIを活用するスマート農業は、新規就農者を増やす試みとしても注目されている。
Universal Agriculture Support LLC代表社員ー金子栄治は、自身のファームにAIを積極的に導入している。そして「農福連携」をテーマに、障がいを持つ人々の支援付き雇用を創出するソーシャルファームを営む農業経営者だ。青葉区で代々続く農家の16代目として幼少期から家業を手伝ってきた。2004年から本格的に従事し約10年間いちご栽培を行った。その間にも東日本大震災のボランティア活動や、企業からの依頼によりタイ山岳部の少数民族へ、いちご栽培指導を通じた自立支援に従事する等、積極的に活動の幅と人脈を広げてきた。
2018年、父親から畑を引き継いでほしいという相談を受けたという。「当初は無理だと思っていました。個人で農業を営むには制度上の制限も多く、自由にやれるわけではない。どうすればいいのか悩みました」そのように当時をふり返る。しかし、それならば法人を設立し仲間を集めてやってみたらどうだろう。当時、農業と並行しながら障がい者支援団体に農業技術員として携わっていた。農業では人手不足が問題で、福祉施設では障がい者を作業者として地域で雇用してほしいという要望がある。そこから農業と福祉を連携したソーシャルファームの構想にたどり着いた。金子がビジネスモデルを提案し、業務内容は支援者と共に考え細分化していく。作業者には出荷にも携わってもらい、市場(社会)の繋がりを体感してもらう。「一番大切なことは、経営者・支援者・作業者が、共に考え共に伴走していくことです。ゆっくり時間をかけて安心できる場を作り、小さな成功と失敗をくり返しながら学び、どのように再現性を高めていくか。つまり、自分のファームがやっている内容を、他の人も真似できるようになれば、社会にその仕組みが広がっていきます」熱く語る。現在はビニールハウスの中で、IoTとAIを活用した自動潅水施肥装置「ゼロアグリ」を導入し、ミニトマトの栽培が行われている。ハウス内の日射量・地温・土壌内水分量など、自動計測したデータをAIが分析し、最適な水量と肥料を土中と地上に張りめぐらせたパイプを通して畑に自動投入する。植物は外気の湿度からも水を吸収する。水の与えすぎは茎や枝などが無駄に伸びてしまい、養分が拡散し実の収穫量が下がってしまう。農家には「水やり10年」という言葉があるほど、水やりには技術と経験が必要なのだ。さらに従業員の管理業務なども自動化することで、作業効率は格段に上がった。
今では農福連携のスペシャリストとして、講師やさまざまな企業へのコンサルティングなど、あらゆる業界から声が掛かる。金子のようなソーシャルファームを営む農業経営者の発信力は、今後ますます社会に求められるニーズだろう。ファームで実った野菜は、地産地消で鮮度を保ち横浜の食卓を彩る。「将来の夢は、今後さらに作物の遺伝子を研究してエビデンスを獲得した上で、60歳までに全国10箇所の農園をもつことです。そのうちのいくつかは海外にあっても良いと思います」。金子の情熱があれば、IoTで世界中と繋がることはすぐにでも可能だろう。パワースポットのようなフィールドに、金子のビジョンは無限に広がっている。