東京都目黒区のギャラリーコスモスで開催される。文字通り、今回で12回目だ。毎年、この時期になると、ロサンゼルスの貸し暗室で「貸し暗室を開くなら、ギャラリーも開きなさい。そうしないと、ご飯を食べさせてトイレに行かせないのと同じようなものだ」と言われたことを思い出す。
当時アメリカでは、どこの暗室の会員か、ということが写真家のステイタスだった。ニューヨークでは、他人の作品が見えないように、個室が主流だった。一方、ロサンゼルスでは、みんなでワイワイやる大暗室が多かった。そして、その多くに大小様々なギャラリーが併設されていて、会員がこぞって展示をし、言いたいことを言い合っていた。アメリカではおそらくデジタル主流の今でも、数は減れども、貸し暗室がステイタスであることに変わりはないだろう。
話を戻すが、今回のTHE DARKROOM展は開業15周年を記念して、横浜を飛び出し、前述の通り、東京・目黒のコスモスで行われる。会期の前半と後半で出展者が変わる2部形式になっていて、それぞれの日曜日には講評会が行われる。サプライズゲストも登場する予定だ。一般の方の入場も大歓迎なので、是非遊びに来てもらいたい。
今回ご紹介する写真家は、THE DARKROOM展にも5年連続参加されている足立長久(あだちながひさ 1966〜)だ。彼の作品を例えるなら、「街の一画にある3階建の3階にあるカフェみたいな作品」である。普段、下を向いて歩いていたら通り過ぎてしまうが、少し離れてみると、「あ、なんかあるぞ」と初めて気づく。入ってみると、店内は明るく静かで気持ちがよく、ついつい長居をしてしまう。マスターも多くを語らず、他人から干渉されない大人な空間を楽しめる。彼の作品は私たちにそんなイメージを抱かせる。
今回の彼の作品は飛騨高山のスナップだ。5年前、バイクでツーリングしたときのイメージが強烈に焼き付いていて、「いつかモノクロで撮りたい」と思い、この写真を撮るためだけに飛騨を訪れたという。長浜の黒壁は有名だが、飛騨の「さんまち通り」の(おそらく)渋墨塗りも印象的である。足立長久の長所であり短所でもある攻撃性の無い写真に仕上がっている。サラッと見るのもよし、じっくり入り込んでも面白く見ることができる。「これを見て」とか「こんなのいいでしょ」とか「やっぱりこうでしょ」とか、そういったことを一切語らない、無口なマスターのような作品である。
3階のカフェで昼下がり、冷めてしまった珈琲を飲みきる頃、ふと写真が目に入ってきて、「ああいい写真だなあ」と思う。そんな写真である。