仕事で風景写真の依頼は少ない。なぜなら、ちょっと行ってパッと撮れるものではないからだ。「夕焼けを撮って欲しい」という依頼があったとする。撮影時、天候は晴れであること、高い位置にほどよく雲が出ていること、前日に雨が降っていることなどなど、ある程度の条件をクリアすると比較的綺麗な夕焼けになるのだが、それがいつなのか正確な予想はできないし、山頂からとか海辺とか指定される場合などは難易度がさらに増す。つまり風景写真は技術云々ではなく、写真家がその写真を撮ることができる場所にいかに立っているかということになる。
先日、宮崎県五ヶ瀬町にカメラマン3人で行ってきた。五ヶ瀬町に約一週間滞在し、その町の美しい風景と人々を撮影してきた。地元の人たちをたくさん紹介してもらい、その人達自身だけでなく、その人にまつわる風景やモノを撮影させてもらった。
子供たちにカヌーを教えている人は、「世界中を回ってここに落ち着いた」と言っていた。畑作業をしていた人は、「毎日同じことしていてもう飽きちゃったよ」と幸せそうに笑っていた。タトゥーの入っている兄ちゃんがお茶っ葉を煎りながら、「ほんとに美味いですよ」と熱い窯の向こう側で呟いていた。「神の手」を案内してくれた人は、「ウチにはお墓はない。そのかわり別荘がある」と言って自分で作った祠を別荘と呼んで、先祖を祀っていた。宿で囲炉裏料理を振舞ってくれた人は、「この写真すごいだろ。でもその時カメラ持ってなくて携帯でしか撮れなかったんだ」と言ってガラケーの画像を見せてくれた。まもなく100歳を迎える夫婦が畑で、「俺の左目はもうほとんど見えないけどコイツが居るから大丈夫だ」と言って奥さんを紹介してくれた。
写真は、目に見えるものだけを記録するのではない。そう実感することができた。俺たちにとって五ヶ瀬での時間は、本当に夢のような時間だった。