北海道のオホーツク海に面する人口3500人ほどの興部(おこっぺ)町に、飼料・生産・加工まですべて無農薬にこだわり、日本で初めてオーガニック認定を受けた酪農ノースプレインファームがある。緑園都市にある支店「ノースプレインファーム緑園」は、30年ものあいだ街の人びとから親しまれており、店内で食べる本格ハンバーグやソフトクリームが大人気だ。朝起きるのが楽しみになるような有機醗酵バターは筆者もおすすめの一品だ。
この店のオーナー和田俊子の曾祖父が、北海道のおこっぺ町で開拓農民として牛を飼い始めたのが創業の始まりだ。酪農家で育ち、幼少のころから兄と一緒にミルク缶運びの手伝いをしながらのびのび過ごした。雨の日には母親がストーブの上で、葉っぱの形をしたワッフル型のケーキを焼いてくれた。「夢を描いたほうが良いですよ!きっと叶いますから!」明るい声色で発する和田のポジティブなメッセージは、一瞬で周囲の人をとりこにする。オホーツクの大自然の中で育った自由な感性が根源にあるのだろう。
北海道の本社工場は従業員数が70人近くに拡大し、現在は兄の大黒宏が経営している。農林水産省のデータによると、全国的な酪農家の戸数は、1963年には約42万戸だったのが、2024年には初めて1万戸を下回った。餌代など生産コストの上昇に加え、少子化や食生活の変化による全国的な牛乳・乳製品の消費低迷、地域の人口減少により、ノースプレインファームの歴史でも、生乳の生産調整をしなければならない時期があったと話す。牛は人間の都合に合わせて出す乳を減らすことはできない。搾乳したばかりの生乳を廃棄するという作業は、酪農家にとってとてもつらいことだ。加工製品の有機チーズや有機醗酵バター、有機ヨーグルト等のほかにも、地産地消の枠組みを超えて全国からおこっぺ町を訪れてもらい、業界全体を活性化できるような、魅力的な商品を生み出せないだろうか。大黒は模索していた。ある時、横浜の百貨店の会長が北海道を視察旅行するため、案内役を引き受けたという。その時かけられた言葉にヒントがあった。「大人でも食べられる歯にくっつかないキャラメルを作れませんか?」消費者の目線に立った何気ない一言との出会いが、新商品開発のきっかけとなった。それができれば面白いかもしれない。地域全体の生乳消費量を活性化させるため、生クリームはあえて地元の大手乳業メーカーから仕入れたものを使用。試作をくりかえし完成した、日本初の生キャラメル。札幌駅の小さな店舗で販売を開始すると「口の中で10秒で溶けてしまう」と大きな反響があり爆発的にヒットした。地域の生乳の消費拡大に大きく貢献することができたのは言うまでもない。
おこっぺ町の小学校の給食では、今も昔もおこっぺ牛乳が配られている。変化を続ける世の中で、変わらないものこそ本物だ。和田は「この街で30年お店を続けていると、当時はお腹の中にいたけど、今はママになっている方もいらっしゃいます。ソフトクリームや牛乳の味は変わりません。ずっとここに住んでいる人たちは、うちのソフトクリームを食べて育ち、今は別の場所で暮らしている人もたまに戻ってきてくれます。それはとても嬉しいことです」そのような思いを語ってくれた。
牛の排泄物を堆肥にして豊かな土壌を作り、農薬や化学肥料をつかわずに牧草を育てる循環型酪農を創業当初から一貫して続けてきた。自然を守りたい酪農家の思い。サスティナブルな酪農を未来へつなげたい願い。そうだ、すべては「夢を描くこと」から始まっている。
住所 | 横浜市泉区緑園4-1-2 |
営業時間 | Open 10:30-18:00(L.O.17:30) |
休日 | 火曜日 |
www.instagram.com/northplainfarmryokuen/ |