クリエイターという言葉の意味を調べると、<造物主、神><創始者 創設者><創造的な仕事に携わる人の総称><広告制作者>となっている。つまり、写真家もデザイナーもスタイリストもヘアメイクも皆クリエイターなのだ。そしてもちろんミュージシャンもクリエイターである。
先日、「中村パーキング」という4人組バンドのミュージックビデオ(以下、MV)の撮影を行った。MV制作というのは様々なクリエイターの共同作業によって創り上げていくもので、それぞれの主張を絶妙なバランスで紡いでいく。だから気の合う組み合わせであればとても楽しい現場になるし、そうでないとかなりキツイ現場になる。
この撮影の数日前にも、別のMVの撮影を行った。とてもメジャーなミュージシャンだったのでこちらとしてもかまえて現場に入ったのだが、そのミュージシャンの人間力が圧倒的に高く、現場の空気を見事にコントロールしていた。おかげでとても良い撮影ができたと思っている。
そんな撮影の後だったので、「中村パーキング」の撮影もとても楽しみにしていた。彼らは愛知県西尾市出身の4人組ロックバンドで、下北沢と横浜を中心に活動している。名前の由来が気になるところだが、特に無い。さらにメンバーに「中村」がいるわけでもない。
今回の撮影中に彼ら自身が、あることを選択しなくてはならない場面があり、メンバーの意見が割れた。そんな時、通常ならば、リーダーが決定を下す。そしてその決定に不服なメンバーが気まずい空気を作り、しまいには監督がブチ切れるというのがバンドMV制作現場のあるあるなのだ。しかし彼らの場合、リーダーというポジションすら無いので、撮影クルーはヒヤヒヤしながら事の成り行きを見守ることになったのである。
そのやりとりを見ながら、私は4人とも紛れもなくプロのクリエイターだと感じた。何故なら、それぞれが発している言葉の質や温度は様々だが、皆共通してお互いをリスペクトしていて、絶対的な信頼関係を築いているからだ。モノを創造していくということ、それも一人でなく皆で創ることの難しさを彼らは理解しているのだ。
彼らは一見、それぞれの個性が強くバラバラに見えるのだが、そのバランス感覚が非常に良く、本人たちからすれば無意識の中でその関係を保っているのだろう。4人それぞれのレベルが高くトンガっているにもかかわらず、心地よい音になっているのがその証拠なのだろう。沢山のMVを撮ってきたが、心から応援したいと思うバンドは数少ない。
ミュージシャン、スタイリスト、デザイナー、ヘアメイク、そしてカメラマン。強烈なクリエイターたちの思いが、一本のMVには込められている。現在、彼らの編集の真っ最中だ。このMV「回想ライダー」は1月26日にリリースされる。