働く内容や働き方を多様に選択できる現代。さらなる仕事のやりがいを求めて、起業を志す人も増えている。今回取材した、日吉でグルメバーガー店を経営する「MADE IN HANDS」オーナーの阿部和彦も、異業種から飲食業界へ参入し、起業した一人だ。
阿部は筑波大学大学院を卒業後、大手外資系コンサルティング会社に就職した。そこではクライアント企業のITを活用した業務内容の効率化や、グローバル展開のサポートなど、幅広い分野で実務経験を積んだ。しかし彼は、社会の仕組みを広く知ることができる企業でしばらく学んだのち、独立して飲食店を開業するというロードマップを最初から決めていた。順風満帆に見えるキャリアだが、辞める決断に迷いはなかったと話す。何が彼をそこまで惹きつけたのか聞いてみると、シンプルな答えが返ってきた。大学時代、一人暮らしがきっかけで料理をするようになった阿部は、仲間を呼んで料理の腕をふるまう機会を重ねるうちに、人に喜んでもらう楽しさと、その奥深さにどんどんはまっていったという。
独立後は、ジャンルを決めた「専門店」を開きたいと思いながらも、何を扱う店にするかずっと未定だった。居酒屋やビストロだと、肉・魚・野菜など幅広い食材を扱うことになり、一人で調理するには工程が複雑だ。そして材料が余れば食品ロスのリスクが高まる。それは昔、居酒屋でアルバイトをしながら日々感じていた事だった。しかし、バリエーションが少なすぎると店としての面白さに欠けるので、アンテナを張りながら可能性を探る日々は続いた。転機が訪れたのは社会人3年目のある日、業務が忙しく昼食を食べ損ねた状態で街を歩いていた時のこと。中途半端な時間帯で開いている店が少なく、たまたま入ったのがグルメバーガーの店だった。それまでグルメバーガーという存在は知っていたが、食べるのは初めてだった阿部は、予想をはるかに越える味わいと、その食べ応えに衝撃を受けたという。バーガーは肉、パン、野菜という基本的な食材は共通しているが、ソースやチーズ、ベーコンなど挟む具材を変えれば、風味が変化し別のメニューになる。その時、「自分が求めていた商材は、まさにこれなのでは?」と感じたと語る。
退職後は都内のグルメバーガー店で修業しながら、休みの日にさまざまな店を食べ歩き研究を重ね、2016年9月に念願の店をオープンした。店名の通り、パンも粉から手づくりで毎日焼いており、ベーコンも手間暇かけて熟成させている。パテはビーフ100%を使用、そこに秘伝のソースが添えられている。
まるで自分自身をコンサルティングするように、ゼロから店をプロデュースしていく作業は、阿部のようなこだわり派の人間には心が躍るプロセスに違いない。前職で多くの企業と関わって得た知識も、今に生きているだろう。客のニーズをいち早く把握しメニューに生かしながら、新しい味の研究にも貪欲だ。「MADE IN HANDS」をひとたび訪れたら、阿部の思いが込められたハンバーガーを通じて、ワクワクするような体験があなたを待っていることだろう。