「ヤナケン」の愛称で知られる柳川健一は明るく熱心、明瞭で、周りを巻き込むエネルギーに満ち溢れる男だ!そんな彼も、6年間の構想の後、数週間にわたって主催を担当した「サイクルメッセンジャー世界選手権2023」(以下CMWC イベントについては次ページの記事を参照)の後には、さすがに休息を要した。そしてわずか数日間の休みで、彼はその活発さを取り戻した。我々が彼のインタビューを行ったのは一週間働き終わった金曜の夜だったが、その際も柳川は疲れなど感じさせないほど明るかった。
49年前、横浜市の中心地からほど近い上大岡に誕生した柳川は、昔から運動が好きだったという。若い頃に自転車に出会い、トライアスロンの選手になることを考えた時期もあった。体を動かし続けられる仕事として、他にも消防隊や自衛隊が候補にあがったが、自転車配送業が一石二鳥だと考えたと柳川は言う。彼がクリオシティを創業したのは2003年のこと。今では43名の従業員を抱え、東京にも支店を構えるほどに成長した。しかし、市民としての忠誠心が高く、活動拠点は常に横浜市西区にあるという。クリオシティでは希望に応じた当日配送サービス(自転車やその他の交通手段を使う)だけではなく、セールスプロモーションやオフィスのサポートも行っており、小さな会社で日々発生するニーズに柔軟に対応していくことが手助けになっている。「穴埋めをするようにビジネスを展開しています」。と彼は話す。
柳川は気取らない理想主義者だ。横浜市やNPO法人とタッグを組み、地元の環境問題への関心向上や、温暖化の解決策の推進に力を注いでいる。SDGs17の目標(持続可能な開発目標)にも注力しており、一番大切なのはどれか聞くと、迷うことなく環境に関する取り組みだと教えてくれた。自転車の利用を促進することで、環境汚染につながる排出物の量や化石燃料への依存を軽減しつつ、なおかつ「若者にサイクリングの楽しさを知ってもらうきっかけ作り」もできるのだ。
2017年に、「ヤナケン」、「サンテ」、「ラスカル」、そして後の2022年大会で世界チャンピオンとなる「ちかっぱ」を筆頭とする自転車愛好家のチームが2023年のCMWCの企画をするという過酷な仕事を請け負った。日本では2009年の東京大会後初となる開催だった。(ニックネームは自転車乗りの世界では慣習となっており、横浜ベイブルーイングの鈴木真也はメッセンジャー時代、ズーキーとして活動していた)日本代表が2019年のジャカルタ大会で優勝した際、この後やってくるだろうさらなる活躍の場と成功を楽しみにしていた。しかし、コロナの感染拡大により2年間の開催中止に追い込まれることになった。このような状況でも企画チームは屈することなく進み続け、2022年開催のニューヨーク大会によって持ち直すことができた。日産スタジアムで行われた最終決戦に377名が参加し、そのうち約40%は世界中28ヵ国から来日した。(他のスポーツ大会と違い、CMWCでは男女混合で試合が行われる) 開催日までどれほどの調整が必要だったか、容易に想像がつくだろう!
どのような競技でも、もちろん選手たちは勝つことを目標としているが、CMWCの試合にはさらに深いコンセプトがあるのだという。CMWCのカーゴバイクレースは、震災や津波の発生時を想定して行われており、運ばれる荷物は緊急時に使用される水やガソリンのタンク、AEDなどをイメージしているのだ。実際に使用されていた箱には古着が入っているものもあり、ファストファッションの廃棄を減らすため、レース終了後は販売やリサイクルされると言う。想像力豊かでひたむきな主催者たちによって細部までこだわった大会になった。彼らのチームはすでに2024年、2025年にそれぞれチューリッヒ(スイス)とシドニー(オーストラリア)で開催されるCMWCに向けて動き出している!