筆者である私はカリフォルニア大学バークレー校で、初級の日本語を教えている。言語学習に興味を持つ学生の多さには驚きとともにやる気がみなぎる思いだ。長年に渡り本誌のスポンサーで、横浜国際教育学院(YIEA)のベテラン教育者、サンモールの卒業生でもある和泉雅樹副理事長に、今日の言語学習にまつわる見解を伺った。
1. テクノロジーを活用した自動学習や機械/AI翻訳の時代において、言語を学ぶことが依然として重要であるのは、何故だと思いますか?
機械/AI翻訳がだいぶ自然になったとは言え、まだまだニュアンスが訳しきれないところがあります。例えば映画の字幕を見ていてもおかしな表現になっていることが多くみられます。何よりも、言葉は文化です。相手の文化を理解するには言葉を理解することが一番です。理解する言語が一つ増えると、世界が一つ広がると言われています。まさにその通りだと思います。
2. 教室ではなにか新しい技術を活用していますか?(漢字の練習や、パソコン学習にiPadの使用など)
覚えるには手を使って書くことがやはり一番確実ですので、学生には、「手書き、手書き、手書き」を強調しています。授業する上では、教室ではデジタル黒板とスマートテレビを活用しています。進学情報などの掲示板はオンラインになっています。
3. 機械/AI翻訳の技術は格段に進歩しました。日本語訳に関して機械/AI翻訳は、今後どのような壁があると思いますか?
そうですね。機械/AI翻訳はストレートな表現は問題なく訳せるようになって来ていると思います。しかし、周りくどい言語として知られる日本語は、きっとまだ時間がかかるでしょう。
4. YouTubeやポッドキャストなどを使って日本語を学ぶ人が増えています。教室での対面学習が重要であると思う理由を教えて下さい。
言語を体系的に効率的に学ぶには教室内で学ぶのが一番です。また、対面で何かを学習することは、遠隔的に学習することと身につくものが違います。これは日本語学習に限ったことではないでしょう。人と人は面と向かっている時に伝わるものがあると思います。パンデミックの間、諸々の習い事がオンライン学習に切り替わりました。でも対面学習が可能になると、やはり対面に戻る人が圧倒的に多いのは理由があると思います。
5. テクノロジーと同様に、言語(特にスラング)も進化することは興味深いことです。最近のスラングにはどのようなものが見受けられますか?
SNSなどオンラインの表現が、実際の会話に入ってくるという現象が起きています。例えば、絵文字の涙マークを「ぴえん」という言葉として、会話にも使われるようになりました。また、笑うことを「草」という若い人も多いです。「了解しました」も「り」の一言です。ネット上だけではなく、日常の会話に使われているのが特徴的ですね。また、最後を「み」に変えて、まるで名詞のように使うのが最近流行っているようです。「うれしみ」「やばみ」「分かりみ」などがありますが、一時的な人気なのか、それ以上のものなのかはまだわかりません。
6. 言語学の法則は、言語は時間の経過とともに単純化していくというものです。(日本語の古語は現代日本語よりもはるかに複雑です)。日本語がより単純化、または合理化された例として何か思い当たりますか?(難しい質問だと思いますが)
数年前から「ら抜き言葉」が多くなりました。「食べられる」が「食べれる」になったり、「見られる」が「見れる」になったり、そのような変化です。最初は幾つかの言葉だけが頻繁に「ら抜き」になっていましたが、今はかなりの数の言葉が「ら抜き」で使われているようです。恐ろしいのは出版されたものでさえも、「ら抜き」を訂正しなくなっているという現象です。