根岸駅の隣に、横浜本牧駅という名の貨物駅があることをご存じだろうか? この駅は、横浜から出荷する貨物の送り出し、さらには全国から届く貨物を日本各地へ、そして世界の港へと届けている。鉄道ファンにとってはコンテナを乗せた貨物列車が行き交う様だけでも魅力に感じられるかも知れないが、この駅のもう一つの魅力は、ここで大切に保管され、現在は一般公開されているC56形蒸気機関車の存在だ。
駅長の村井英樹が横浜本牧駅に着任した2008年当時、蒸気機関車C56-139号、通称「ポニー」は、ひっそりと駅舎に静態保存されていた。1938年に製造され、北海道や九州、そして神奈川県で貨物機関車や教習車として活躍した、この美しい蒸気機関車を、自身もSLファンだった村井は程なく一般公開することに決めた。
村井は、北海道の和寒町出身。生家は駅からほど近く、家族や親族も鉄道関係者という環境で育った。国鉄の職員だった父親は、村井の家の最寄り駅で車掌を務めていたため、通学のために毎日駅を利用するたびに、「父親に見張られているようだった」と笑う。そして村井は高校卒業後に上京し、神奈川臨海鉄道株式会社に就職。鉄道業界以外の道は考えなかったという。
現在、横浜本牧駅、根岸駅、本牧埠頭駅の本牧線3駅の管理で多忙ななか、蒸気機関車を見たいという人があれば、近隣の幼稚園児の見学会から遠方から訪れるSLファンまで、いつでも笑顔で案内をしている。「全て手づくりで丁寧につくられている、この素晴らしい技術を見て欲しい」。C56-139号を撫でながら語る村井の目は、まさに真摯な鉄道ファンのそれだった。