ビール造りの趣味が高じて、これで食べていこうと決めて今までのキャリアを捨ててブルワーに転身…というのはクラフトビール業界にはよくある話だ。だが、エビナビールのブルワー兼共同オーナーであるトーマス・レハクはかなり異色の経歴の持ち主である。20年間プラハ交響楽団及びプラハフィルハーモニーオーケストラでチューバ奏者として活躍。そこから180度異なる世界へと身を投じたのは何も自身のキャリアだけに留まらない。ブルワリーを立ち上げるために母国チェコを離れて日本へ移住という、更に難易度の高いことをやってのけたのだ。
オーケストラの一員として2001年に初来日したレハクは、2ヶ月にわたるツアーで各地を巡るうちに日本のことが好きになった。以降ほぼ毎年日本を訪れる機会があり、日本語の基礎を学べば得るものが大きいはず、と判断したのだと言う。平井史香が(互いの言語を教えあう)ランゲージエクスチェンジパートナーとなった当初、まさか彼女がのちに自分の妻でビジネスパートナーになろうとは知る由もなかった。
相模原生まれの平井と家族は、平井が10歳の時に海老名市に移り住む。オンラインでレハクとの繋がりができた頃、彼女は日本語教師になろうと思っていた。二人がオンラインでチャットをするようになって一年ほど経った2004年、一度直接会ってみようということに。それから二人の仲は進展し、2005年に結婚。だが、そうしてチェコへ移り住んだものの、平井の心にはどこか故郷の海老名を恋しく思う気持ちが残っていた。
一方、レハクの自作ビールは家族や友人から高い評価を受けていたこともあり、自分の醸造所を持ちたいという考えが頭をよぎるように…。その頃日本ではクラフトビール人気が高まっていたものの、海老名ではそれもまだ無縁の話。だが平井にとって、故郷で醸造所をというのは願ってもないチャンス。夫婦で仕事をしている間、9歳と11歳の子供の世話を自分の母親に頼むこともできるからだ。夫婦にとって海老名に拠点を移すことは、家族全員にとってパーフェクトなことだという結論に達した。
3つの路線が乗り入れている海老名駅周辺の土地は、当時大規模な開発が進んでおり、二人は新しくできたららぽーとの向かい側にちょうど良い物件を見つける。醸造免許を取得するため、レハクは石川県の日本海倶楽部、続いて横浜ビールでの仕事を通じて貴重な経験を積む一方、醸造所を造る作業はほとんど自分一人でこなした。そして2017年2月、晴れて醸造所がオープン。
レストランの経営に加え、実務面のほとんどを平井が担う一方で、レハクは誰か手伝ってくれる熟練者を近いうちに採用したいと考えているが、今のところは醸造作業の全てを一人で行っている。ビールはチェコスタイルをベースに彼独自のひねりを加えたものになっている。ピルスナーはまさしくボヘミアンスタイルだが、主力のエビナラガーは4種のホップを使ったオリジナルの極秘レシピ。タップの数は全部で8つ、そのうち6つが定番、2つが季節限定だ(ビールは全て480ml ¥850, 260ml ¥500)。ビールクーポン(¥8500税抜き)を購入すれば、480mlのビール11杯分と、おまけで230mlが1杯分付いたスタンプカードになっていて¥1500ほどお得になる計算だ。
フード類は多国籍。チェコビールに合わせるなら、ブランボラーク (¥500)というガーリックのきいたジャガイモのお好み焼き風料理、或いはピクルスの入ったチェコ風ポテトサラダ (¥500)を試してほしい。そのほかの美味しい取り合わせとしてはソーセージセット(2本 ¥500 / 4本 ¥900)やナチョス (大 ¥900 / 小 ¥600)、フィッシュ&チップス(大 ¥850 / 小 ¥650)などなど。
エビナビールの場所は海老名駅西口から徒歩2~3分。テーブル席とカウンターに分かれており、収容人数はおよそ25名。店内は完全禁煙。