近年の急激な気候変動により巻き起こされる数々の自然災害。そして、これまでの常識を覆し、ニューノーマルをもたらした新型コロナウィルス。人々が共に助け合い、あらゆる問題を解決していく必要性と、多様性への理解はこれまでにないほど高まっている。かつて、障がいを持つ人々を取り巻く環境は、今よりも厳しいものだった。その状況に警鐘を鳴らすべく、横浜の企業「ショコラボ」は、多様な人材の技術を生かして職場環境を整え、その技術をより生産的に社会へ組み込んでいくことに全力を投じてきた。
ショコラボ代表の伊藤紀幸(56)は、29歳の時に障がいをもった息子を授かった。小中高一貫の特別支援学校へ入学し教育を受ける中で、先生から将来についてしっかり考えるように言われたという。先々待ち受ける障がい者の就労の現実は大変厳しく、賃金もとても低い事を知り、何かを変えたい、変えなければと感じた。そこからの伊藤の動きはすさまじい。「過去は何も変えられない。変えられるのは自分自身と将来だけである」と、それまで銀行員として勤めてきた職を36歳で辞める決断をする。これまでの仕事どっぷりな生活ではなく、子どもと過ごす時間を優先させながら、起業について学んだ。さらに資金を溜める必要性を感じた伊藤は外資系企業へ転職し、起業のタイミングを見計らっていたという。
我が子への深い愛情と、同時に沸き起こる将来へ対する漠然とした不安。その両方がいかなる時も彼の原動力となっていた事は言うまでもない。人生のベクトルが定まったと感じた2012年、伊藤はショコラボを立ちあげた。「ショコラ」、「ラボラトリー」と「コラボレーション」を組み合わせた名称には、健常者と障がい者のコラボレーションという思いが込められている。すべての従業員が、互いの違いを当然のように受け入れており、そのコンセプトに共感した多様な職歴を持つ人材が、「自分がこれまで受けてきた学びをもっと見える形で社会に還元したい」と伊藤の周りに集まってきて、ショコラボ全体を力強く支えている。
ショコラボの名前が示すように、同店はチョコレートの専門店で、原料となるカカオを深く研究し海外研修も行っている。各製品の品質は高く、厳選されたカカオから生み出される製品のフレーバーにも様々な種類があり、チョコレートファンにとっては、商品を選ぶ楽しみ・ギフトとして贈る楽しみ・食べる楽しみと、いろいろな楽しみ方がある。店舗のあとには、製造現場も外から見学させてもらったが、障がいの有無にかかわらず、全従業員がそれぞれの得意分野を生かしてすべて手作りで丁寧に製造している。全員がプロフェッショナルなのだ。そして製造部門、オンライン販売部門と店舗が、近くの距離とはいえ、それぞれ別の建物内にあっても成り立つのは、視覚学習者にとって作業内容が分かりやすく、作業効率も上げているからだろう。
親子の絆という、普遍的でゆるぎない軸が、明確なビジョン、企業理念へと繋がっている。ショコラボで達成された企業の多様性の在り方が、社会全体のより良い理解へ繋がるならば、それは伊藤の願いでもあるだろう。「ノーマライゼーションという言葉そのものがなくなるような社会が、いつか実現すると良いなと思っています」と笑顔で話してくれた。取材時、熱心に働く従業員の姿が特に印象的だった。働くことの喜びと、誇りを持って製造しているという思いが伝わってくる。そして、互いをリスペクトし合う姿、そこには伊藤の思いが明確に反映されている。
今年4月にはランドマークプラザ1Fへショコラボ新店舗をオープン。