サンモールは国内最高のインターナショナルスクールの一つだ。教職員や運営側も(そして学生諸君は言うまでもなく)同じように同校の成功の立役者であるが、ジャネット・トーマスほど中心的役割を担ってきた人物はおそらくいないだろう。教育の仕事に携わって53年、現在彼女は理事長兼人事部長を務めているが、1991年から2013年の間は校長、それまでは長年にわたり教職に従事していた人物だ。以下は10月に行ったインタビューの要約である。
この数十年の間で若者の教育はどのように変わりましたか?
トップダウン方式ではなく、今は学習プロセスの中で生徒達が積極的な役割を果たすことを奨励するような環境づくりが大事であると、教育者側は認識しています。そのため教育者としての魅力や刺激があり、創意工夫が出来て且つ革新的であることが求められるのです。
学習という科学に関する理解が以前よりも深まったことで、現在では学生達のコラボレーションや質問を投げかける形式での学習を通してスキルを育んでいくことに焦点が当てられています。それによって教育者側が今までと異なる考え方を持ち、新しい教育方法を追求し、生徒達を学習者として関与させる必要が生じたため、教育者という職業も活性化されました。
しかし、敢えて言うなら「昔の学校」的な要素の居場所もまだ存在していると、そう私は信じています。生徒に読み書きの基礎をしっかりと身に付けさせることや算数などは不可欠ですから。
サンモールは日本にある他のインターナショナルスクールとどこが違うのでしょうか?
我が校はその使命や先駆者的な精神に対して忠実であり続けています。私どもの前任者達は確固たるやり方を示してくれていました。つまり、私たちは健全なガバナンスモデル、意思決定プロセス、後任の選定、そして強い使命感やコミットメントといった形で青写真を与えられていたのです。こういった価値観や伝統を堅持してきましたが、その一方で本質的な変化を受容することで、本校創立者の精神を見習ってきました。使命を重視し、ビジョンありきで尚且つ前向きな思考を持つーそのような姿勢を通じて、私たちは新しいアイデアや機会を受け入れながら挑戦を続けています。
残念なことに、音楽教育はどこも予算削減の憂き目にあっていますが、音楽はなぜ人間教育にとって大切で重要な意味を持つと思われますか?
音楽に専念する授業時間をゼロにしたり減らさねばならない学校が多いですね。資金的なことが主な原因となる傾向はありますが、他の科目の時間を作った結果、音楽はそれほど重要視されなくなってしまいました。様々な研究結果から音楽が脳の発達を刺激し、IQや学術全般の達成度合いを向上させることが指摘されているのですが、不幸にもそのような研究結果はこれまで無視されているのです。そうなると、お金を払ってプライベートでレッスンを受けることができるような生徒だけが、音楽や知的能力を伸ばす恩恵にあずかるわけです。でも音楽はたった一つの「国際語」だと私は思っています。音楽は国境、文化、宗教の垣根を越えるものです。音楽は人々の心を一つにし、他にはない意思疎通や表現方法を私たちに与えてくれます。魂と人生を豊かにしてくれるのが音楽なのです。
横浜や東京の多くの学校で、学生がどっと入ってくるという現象が起こっていましたが、その際サンモールは学生数を500名程度とし、それ以上は受け入れないと決定しました。私たちが重きを置いているのは、学生の「数」ではなく「質」なのです。教室の数を増やした学校もありますが、本校では最先端の美術センターを建設、1998年に竣工しました。この施設のおかげで、学生達は様々な芸術活動に興味を持つ機会ができました。全校生徒が音楽に参加しており、合唱団やバンド、アンサンブル、オーケストラのいずれかに参加する機会や、舞台ミュージカルで定期的に演奏する機会などもあります。
ご自身の学生時代に先生からしてもらったことで、どんなことが最高の思い出になっていますか?
私にとって最高の思い出は音楽の先生方ですね。励ましや刺激、それにやる気を与えてくれました。先生方の献身や手ほどきのおかげで、とても競争率の高いロンドンの王立音楽院に入学することができたのです。同音楽院時代は、現在最も有名な音楽家の人たちとも一緒に学んでいました。イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、そして日本の各国で、音楽の指導者及び演奏家としていくらかの年月を過ごして参りましたが、私の歩んできた道がここにきて学校の運営という方向に転換しました。しかし、音楽家として得たスキルや規律は生涯を通じて私の支えとなってくれています。音楽は私が個人として成長し、学校運営において直面する大きな問題にも対処できるようになる上で、かけがえのないものだったのです。