幼少期の絵本の読み聞かせは、より豊かな心を育むといわれている。挿絵の色彩や読み聞かせの声、そしてその温もりや雰囲気など、子どもたちは大人が想像する以上に、五感をつかって吸収し何かを感じ取っている。日吉本町駅から徒歩4分の場所にある「こどもの本のみせ ともだち」では、子どもたちにぜひ読んでほしいと選び抜かれた絵本がずらりと棚に並び、子育てのことなども気軽に相談できる。今年3月に50周年を迎えるという、日本で最も歴史ある児童書専門店の同店は「ともだち書店」の愛称で親しまれ、地域の歴史と共に歩んできた。そのルーツは、日吉で1964年に徳村彰・杜紀子夫妻が創業した日新堂書店にある。当時はまだ少なかった子どもたちの居場所づくりに、1971年、書店の2階を解放して工作や読み聞かせなど行うために開設された「ひまわり文庫」がきっかけだという。1973年に創設者の意志を受け継いで新メンバーで スタートしたのがこのともだち書店というわけである。これまで何度か閉店の危機もあったというが、この店を残したいと願う多くのボランティアスタッフが、上手にバトンを受け継ぎながら乗り越えてきた。
月3回月曜日の午前中に、絵本の読み聞かせ会「くまちゃんのおはなし会」を開催している。登場するくまちゃんのパペット人形に、子どもたちのキラキラしたまなざしは釘付けだ。豊かな土壌に丁寧に種をまいていくような、読み聞かせスタッフの優しい声と、絵本から紡ぎ出される音の響きが心地よい。子どもたちの想像力を育む一助になっているのは見ていて明らかだ。「たとえ絵本の内容はまだ理解できなくても、楽しく読んであげる雰囲気から、この中には楽しいことがあるんだなと、子どもなりに感じています。どのような絵本でも良いのです。親子で一緒にお気に入りの絵本を見つける体験をしてほしいと思います。きっとその体験はかけがえのない時間になるでしょう」と語るのは、スタッフの及川智子さんと杉浦孝子さん。最近は父親の参加率も高まっているという。同店が掲げているコンセプトは「ドキドキするような本との出会い・ほっとするような人との出会い」。「本と人と街をつなげる地道な活動が、少しずつ実り始めている瞬間は、喜びでもあります」と二人は話してくれた。 ともだち書店の物語はこれからも続く。