今月号では、昔の珍しい本、写本、写真、版画、地図などを専門的に扱う古書店「幕末屋」を2018年にオープンした、横浜在住のアレックス・バーンを紹介しよう。
幕末屋をオープンすることになったきっかけを教えてください。
歴史マニアの私は、とくに鎖国の終わり、ペリーが来航したころの歴史が好きで、日本にいつも興味がありました。20代前半のとき、運に恵まれて大阪にワーキングホリデーで1年滞在し、シドニーに戻ってからは日本に関する本を扱う本屋を探していました。あるとき、布に印刷されたような古い本を見つけました。それは日本のおとぎ話を英語に訳したもので、クレープ紙(ちりめん紙)に印刷された木版画だったのです。この本との出合いをきっかけに、コレクターになろうと思いました。幕末屋をオープンしたのは、日本に20年ほど住んでからです。
お客さんはどのような方が多いですか? また、どこで販売してますか?
お客さんは、じつは同業の方が多いです。本屋というのは、世界で唯一「本を買わなくてはいけない」人たちなのです!そのため客の大半は本屋さんで、ほかには国内外の博物館や大学図書館、あとはコレクターの人などです。実店舗を構えるのもいいのですが、デジタル社会なのであまり必要性を感じず、すべてウェブサイトで販売をおこなっています。買いたい人が、見ている商品がどういう商品なのかきちんとわかるように、1つのアイテムにつき最大30枚の写真を撮ります。また、1ヶ月か2ヶ月に一度電子カタログを制作して、お客さんに送っています。
日本で古本屋になるためにはどういった手続きが必要なのですか?
いい質問ですね。手続きはまさに「only in Japan(日本ならでは)」といった感じです。まず、住んでいる地域の古書組合に加盟しないといけません。そして、最初の3ヶ月はさまざまな古書の市場(交換会)に行って、ほかの古書店の人の手伝いをしたり、伝統的な入札システムについて学びます。驚くかもしれませんが、紙に金額と名前を書いて封筒に入れるというこの入札システムは200年の伝統があるのです。開札の時間が来ると、すべての封筒から札を取り出して落札者が決められます。この最初の3ヶ月は、自分の地域の組合がおこなう市場しか行けないといった制限がありますが、3ヶ月を過ぎると、古本屋として認定され、日本全国の市場に行けるようになります。
どのような商品を取り扱っているのですか?
1600年代から1930年代の絵本、1859年から1900年に撮影された日本に関連する写真、1890年以前に日本で出版された地図、西洋をテーマにした、または英語が書かれた木版画、珍しい原稿(手書きの本)や英和辞典や熟語集などです。
一番レアなアイテムは何ですか?
1つを選ぶのは難しいですが、1830年にバタビア(現ジャカルタ)で出版された、イギリス人宣教師のウォルター・ヘンリー・メドハースト著『英和和英語彙集』を持っていました。湿度が高いバタビアでは当時難しかったリトグラフ(石版)で印刷され、さらにメドハーストは日本に行ったことがないにもかかわらず(1830年にはどの外国人も日本には行けなかった)、中国人と、遭難して救出された日本人漁師(日本に帰る許可が降りずバタビアから出られなかった)の助けを借りて作られた本です。このような本をメドハーストが出版したのは大きな功績で、持っていた本はアメリカの私立図書館が買い取りました。
横浜に関するアイテムで人気なのはどれですか?
Personally, I really like finding early Yokohama-related items. Woodblock printed maps of Yokohama (from 1859 to about 1870) are very nice and tend to sell well. Also, early guidebooks to Yokohama in English. The earliest known is from 1874 by William Elliot Griffis, although he only identifies himself as “A Resident” on the cover. I actually have a copy of that book available now. It is very scarce. Photos of Yokohama taken pre-1880 are also quite collectable and there are some really stunning examples.
個人的に、開国当時の横浜に関するアイテムを見つけるのが好きです。横浜の木版地図(1859年から1870年ごろまで)はとても素晴らしく、売れ行きもいいです。また、当時の横浜に関するガイド本も人気です。もっとも古く知られているのは1874年にウィリアム・エリオット・グリフィスが制作したガイド本ですが、表紙には作者として「A Resident(一住民)」としか記載されていません。今ちょうど1冊ありますが、とても珍しいアイテムです。1880年以前に撮影された横浜の写真も、コレクターに貴重な一品で、目を見張るような数枚が手元にあります。
最後に、横浜とのつながりについて教えてください。
前の仕事の関係で、2002年に田園都市線沿線に引っ越してきて以来、ずっと同じところに住んでいます。初めて山手エリアに足を運んで、はるか昔にここで暮らし亡くなっていった西洋人の墓地を見るため、横浜外国人墓地を訪れたときからずっと、横浜に親しみを感じています。時間があるときには今も山手を散策するのが好きですし、横浜開港資料館で私が扱うアイテムの作者について調べるのも楽しいです。