TELLライフライン(いのちの電話)(以下「TELL」)は英語による支援サービスだ。主な活動目的は自殺を防ぐことだが、TELLのホームページには「どんな悩みでも、私たちは貴方に寄り添ってお話を聞きます」と謳っている。TELLは日本の「いのちの電話連盟」のメンバーとして1973年に設立された組織で、ボランティアによって運営されている。15年余にわたってTELLで様々な役割を果たしてきたスコルジは、現在、いのちの電話のディレクターを務めている。
いのちの電話には、どのような相談の電話がかかってくるのでしょうか?
それはもう、ありとあらゆる内容の電話がかかってきます。自殺や家庭内暴力、レイプなど深刻な相談もあります。最も多いのは孤独、或いは不安や鬱で苦しんでいる人からの相談ですね。他にも、異文化になじめないとか、人間関係や職場の問題で悩んでいる人もいます。
TELLのサービスは、日本に住む外国人が対象なのですか?
元々は外国人居住者に対して支援の手を差し伸べる必要性があって生まれたものです。ですが、現在では電話をかけてくる相談者の半数は英語が話せる日本人です。そのように様変わりしたのは2003年頃で、その当時、自殺率が非常に高かったのです。そういう人たちはおそらく一度海外へ出て、日本に戻ってきたのかもしれません。或いは自身がハーフという場合や、パートナーが外国人なのかもしれません。英語のスキルがあるので、外国人向けのいのちの電話にかければ自分の葛藤を受け入れてもらいやすいと感じているのかもしれませんね。日本人に話すより、私たちに話す方が恥ずかしくないと感じているとも考えられます。
いのちの電話のボランティアはどのように養成しているのですか?
相談者からの電話に一人で対応できるようになるまでには、約5ヶ月かかります。まず最初にトレーニングを受けてもらい、その後1~2ヶ月間は我々がサポートしています。また、2017年からはチャットによる相談も金~日の午前2時まで受け付けているのですが、このサービスを提供するようになって気付いたことがあります。それは、チャットと電話ではユーザー層が異なるということです。ですから、いのちの電話だけでなく、チャットの対応についても訓練しています。
いのちの電話のボランティアの人達は、心理学やメンタルヘルスケアなどのバックグラウンドをお持ちなのでしょうか?
いいえ、全員ボランティアです。今110人程いますが、メンタルヘルス分野でのバックグラウンドがある人もいれば、そうしたキャリアを歩もうとしている人もいて、バックグラウンドは様々です。
スコルジさんご自身のバックグラウンドやトレーニング等について教えてください。
私自身は心理学と神経心理学を学びました。20年以上前にアジアへ移った際に免許の継続が出来なかったため今は免許は持っていませんが、後天性脳機能が専門でしたので、脳卒中や認知症、或いは頭部外傷を負った人の評価を行うことができました。カウンセリングについては修士に準じる学位を持ち、何年もの実務経験があります。その後、行動療法を扱うセラピストとして働き、近親相姦やレイプを経験して苦しんでいる人々の対応もしました。そして現在、いのちの電話の活動を管理しています。職場や学校でのストレス管理からメンタルヘルスの問題まで、様々な内容をコミュニティでお話をさせてもらっています。
精神的に健康でいるためのコツのようなものはありますか?
快活でいるために自分で出来ることはたくさんあります。つまり、質の良い睡眠、食事、運動です。私たちはそういったことを軽視しがちですが、身体の健康を保つことは本当に大切だと思います。人生は常に順風満帆というわけにはいきませんので、ストレスを管理する術を学ぶことは必要不可欠です。一方、精神疾患の人の場合、当人はストレスのことをあまり理解していないと思いますし、ストレスを管理したり、ストレスが体に与える影響を理解しようとは考えないと思います。それよりも、より多くの適切な対処が必要でしょう。たとえばヨガをしたり、趣味を楽しんだり、週末にテレビを見ない、など。息抜きの時間を与えてくれるようなものがとても大切だと思います。しかし、私たちの中には他の人に比べて精神疾患になりやすい人もいます。精神疾患についてまずは理解をすることですね。かかりやすいタイプの人は、悩みがどんな症状になって表れるのか理解し、とにかく早急に対処することが肝要です。
どういったことから理解し始めれば良いのでしょうか?
私たちの4人に1人はメンタルヘルス上の問題を経験します。あらゆる精神疾患のうち、14歳までに発症するものは50%、24歳までだと75%に上ります。しかし、精神疾患の症状をきちんと理解している親が一体どのくらいいると思いますか?親はどうやって子供の身体によい食事を与えるか、どうやったら確実に自分の子供が適切な教育を受けられるか、そういった本は読みますよね。ですが、それと同じくらいメンタルヘルスも重要ではないでしょうか?症状がどういった形で表に現れるのか、親は理解する必要があります。もし自分の子供が苦しんでいたなら、早いうちに助けを求めなくてはならないと思います。研究によると、ほとんどの子供は1年ないしそれ以上親には話さないのだそうです。想像してみてください。もし自分が精神疾患を抱えていながら、1年以上何も対処しないとしたら…自分は一体どうなってしまうでしょうか。もし社会として私たちにできることがあるとするならば、病気がどのような症状で表れるのかを認識し、適切な治療法を理解することだと思います。単にストレス管理や適切な睡眠といった一般的なことを行うだけではないのです。また、助けを求めるべきタイミングを理解することも大切なのです。
孤独感はメンタルヘルスの問題と捉えていますか?
孤独感はストレスと同じく精神疾患ではありません。しかし、孤独感を抱えていることで精神疾患にかかりやすくなります。日本にはお年寄りの人口が多く、その多くが一人ぼっちで寂しい思いをしています。また、全国各地に外国人がいますが、彼らも孤立してしまって寂しく過ごしています。危険なのは「話し相手がいない」という場合。そのような時、人は鬱になりやすいのです。いのちの電話への相談者に対して、私たちは「どうすればこの相談者を再びコミュニティに帰属させられるだろうか。話し相手を見つけたり、一緒にいることで自分の存在価値を感じられるような誰かを見つける方法が他にもないだろうか?」と考えます。
新型コロナウイルスにはどう取り組んでいますか?
多くの人が強いストレスを感じることになるだろう、ということはわかっていますので、私たちの日々の役割やルーティーンも全く変化しています。今はオフィスで仕事していないとか子供達の学校が休みになっているとか、パートで働いているため収入が減るという人もいて、皆お金のことをとても心配しています。日本にいる多くの外国人が「こんなことは一体いつまで続くんだろう?一体いつまでここにいられるんだろう?」と考えていると思いますが、私としてはこうお伝えしたいです。「不安を感じるのは当然のことだけれど、ニュースばかり見るのはやめて、正確な情報を得ましょう。いのちの電話に電話してくれても良いし、週末であればチャットでも受け付けていますよ」と。それともう一つ大事なことは、もし知り合いの誰かが病んでいたら、しばらく様子を見て気遣ってあげて欲しいということです。家に上がり込んだり訪問することはできなくても、何か食べる物を置いていくくらいのことはできるかもしれませんよね。お互いに面倒を見合うといったことも、とても大切だと思うのです。
ヴィッキー、ありがとうございました。ぜひ実践しようと思います!
TELLのいのちの電話のみならず、同組織では横浜市内のクリニックで様々なサービス(カウンセリング、児童アセスメントなど)を提供している他、市内で各種プログラムやワークショップを運営している。TELLは非営利組織であり、寄付金及び募金活動を通じて運営されている。詳細はこちらのサイトtelljp.comへ。
**現在、TELLでは総力を挙げて新型コロナウイルスに関する状況に対応している。TELLから紹介可能な援助や支援サービスについては、上記ウェブサイトに一覧が掲載されているので確認を。