去年の年末に、実家で大掃除をしていたらこんな写真が出てきた。
中央の角隠し姿が私の母である。母の話によると、婚礼の衣装ではあるが母自身の結婚式の写真ではなく、婚礼衣装のモデルをした時に撮影された写真らしい。母が20代前半なので60年以上前の写真である。よく見ると右下に「松岡美山」と書かれていて、住所と電話番号もはっきり読み取ることができた。流石に電話番号は桁数が現在とは違うので諦め、住所を調べてみるとここから車で数分のところだった。普段よく通る道なので、今はそこに写真館がないことはすぐにわかった。
ネットで検索してみると、マツオカフォト店というお店が隣の南区にあることがわかり、ダメ元で電話をしてみると、なんと!大当たりだった!正直言うと期待していなかったので、電話口で「はい、その松岡は祖父です」とさらっと言われた時は、焦った。あわてていたので変な日本語を使ってアポイントをもらった気がする。数日後に訪れたところ、その店は南区の通町で「マツオカ」という屋号になっていて、鎌倉街道沿いにあった。シャッターが閉まっていたので近くをウロウロしていると、バイクで店主が現れシャッターを開けるのが見えた。あわてて駆け寄りお店に入れてもらった。
店主の名前は「松岡 章」さん。「ああ、これは私の祖父に間違いないね、本名は松岡松之助といって美山は作家名みたいなものですね」と言って、昔の屋号の入った古い封筒を見せてくれた。間違いなく母の写真に書いてあるものと一致した。しかし、当時のネガは残念ながら引越し等で無くなってしまったらしい。
マツオカフォトは現在でも写真館として、結婚式や集合写真、発表会等の出張撮影をしていて、役所関係も顧客となっているらしい。中でも船舶関係の写真には定評があるそうだ。 見せてもらった新聞の切抜きの内容も、祖父 松岡松之助が船舶の写真を撮っていることを記事にしたものだった。「祖父の時代から船舶系の仕事は多かったみたいです」
奥に階段が見えたので2階もあるのかなぁと思っていたら、察していただいたようで、「上はスタジオになってます。でも今は、ちょっと片付けてないからなぁ」。俺は間髪入れずに、「みせてください」と頼んだ。上がってみるとそこは宝の山だった。祖父の代から使われていると思われるカメラやフィルムホルダーがガラスケースの中にあり、肖像写真を撮影するための椅子や照明がセットされていた。「先日の成人式もここで撮影しました」と、晴着のテストプリントが無造作に置かれていた。笑いながら「もちろんデジですよ」
『マツオカ』では、デジタルと共存して昔ながらの写真館が生きている。店を出て鎌倉街道を歩きながら、写真はやはり、プリントされていると残るのだろう。データのままにしないでプリントにすべきなんだろうな。そうぼんやり考えていた。