農産物における地産地消型の、こだわりの製品版ともいえるのが、まさに横濱帆布鞄の製品だ。「Made in Y.H.C.NIPPON」をコンセプトに掲げ、使用する生地、金具などすべての材料を横浜に根差した企業との取引にこだわって作られている。創業者の鈴木幸生は、横浜ブランドというからにはすべてのサプライチェーンを横浜にこだわりたいと話す。鈴木は以前、雑貨を扱う会社で立ち上げメンバーとして携わり、業績を軌道に乗せてきた。社長と数名で始めた会社も、辞めるころには従業員200人、グループ全体で年商60億円規模へと成長を遂げていたという。そのときの経験を生かそうと50歳をきっかけに退職し、コンサルティング業を起業した。しかし、それでは何かすっきりしない日々が続いたという。当時のことを振り返って鈴木はこう語る。「自分は根っから物づくりが好きな人間で、辞めて一年も経たないうちに、やはりその分野を追求したいと思うようになりました。そこで横浜のブランドになるような商品づくりを模索し始めたのです」
もっとも特徴的なのは、鞄の素材だろう。いわゆる帆布というと、丈夫な綿素材の製品を思い浮かべる人が多いかもしれない。だが、横濱帆布鞄はそれだけにとどまらない。中区かもめ町にある森野帆布船具工業所が、海上自衛隊の船に供給する素材として扱っている、ナイロンより丈夫な合成繊維「ビニロン」という素材の帆布を使用している。耐久性と防水性に優れており、その素材と出合った時、これは究極のアウトドア素材だと感じたと話す。最初は難色を示した仕入先も少しずつ鈴木の熱意に共感し始め、横浜ブランドにこだわって作るなら良いよ、と取引に応じてくれるようになったという。難点を挙げるならば、丈夫がゆえに加工しづらいところ。そこはこれまでの経験と技術を生かし、試行錯誤しながら自社での製品化に成功した。シルクセンターの英一番街本店は、ガラス張りの工房も構えており、製作の過程を眺める事ができる。商品もアースカラーだけではなく、港から望む海、輝く太陽の光、空の青をイメージしたカラーバリエーションが豊富な鞄もある。鮮やかな色彩は横浜の街によく馴染んで、気分まで明るくなる。あらゆる世代のライフスタイルにマッチするだろう。
アパレルやアウトドア会社とのコラボ商品も、現在は全商品の3割程の割合で展開しているという。店内にはこだわりのアイデアがつまった商品が多く並んでいた。スズキジムニーのカスタムパーツを専門的に扱っている会社「アピオ」とのコラボ製品では、荷台にぴったり収まるサイズの大型バッグを作った。たくさんの荷物を一斉に運びたい時や、岩場など足場が悪くキャリアでは運べない時、これだけ大きな鞄で一度に運べたら何度も往復せずに済むだろう。しかもコンパクトな荷台にちょうど収まるサイズというのは、マニアのハートをわしづかみするのは必定だ。一寸のスペースも無駄にはしない、そんな思いを共に詰め込む。
50歳で独立する前が人生の第一フェーズだとしたら、今は第二フェーズだ。しかし、それで終わりではないというから目が離せない。鈴木の未来像には、さらにその先の第三フェーズがあるというのだ。「まだ秘密だけど、それをやるにはハワイでやるのが一番かな」と微笑む。どのような未来が待ち受けているかまだ分からないが、鈴木ならきっと成功させるだろう。生来のクリエイターは自らの人生を楽しみながら創造していく。