1890年創業の酒屋「元町愛知屋 坪﨑商店」(以下、愛知屋)は、その長い歴史以外にも、たくさんの魅力にあふれている。趣きのある店内にはバーカウンターもあり、その場で上質なお酒の数々が楽しめるようになっている。気さくな店主は知識も豊富。さらに、ビルの裏手には「久佑」というこぢんまりとした居酒屋も併設されている。
唎酒師でもある坪﨑満はとても穏やかな人物で、店に行けば高確率で会うことができるだろう。現在は彼と妻、そして4代目社長である父親の3人で店を営んでいる。店内は広くないので数多くの種類が揃っているわけではないが、その分、坪﨑が吟味した質の高い日本酒、ビール、その他の酒が所狭しと並んでいる。この店の目玉はやはり角打ちできるバースペースだろう。地元密着型の小さな酒屋でよく見られていた「角打ち」(店の商品をその場で立ち飲みできる)は、かつて仕事後のちょっとした息抜きとして人気を集めていた。しかし、残念なことに昔ながらの酒屋が次々と店を畳んでいくと、この角打ちの文化も街から姿を消していった。そんな中、今でも手ごろな価格と会話を楽しめる場所を提供している愛知屋は貴重な存在だろう。壁のボードにはその日楽しめるメニューが書かれ、5種類の日本酒、5種類のワイン、人気のウイスキー、数種の焼酎などすべて一杯500円で提供されている。弊社では日本酒を主に海外へ情報発信している世界唯一の定期発行英字日本酒専門雑誌『Sake Today』も発行しているが、彼の右に並ぶ唎酒師はいないと思うほど、愛知屋のセレクションは素晴らしい。店内のバーは通常は午後5時〜9時(ラストオーダー午後8時30分)、火曜日ー土曜日の営業。
また、「久佑」は満の母と兄が経営しており、カウンターに座るとあたかも誰かのキッチンにいるような感覚を抱く。昔ながらの雰囲気は今でも変わらずそのまま残っており、何度でも帰ってきたくなる。伝統的で家庭的な日本料理を手ごろな価格で提供してくれる店。ああ、そうだここには酒もあるんだ。
※コロナ禍により現在バーカウンターは午後8時まで(ラストオーダー午後7時40分)短縮営業中。