「でくるこつばでくるしこ」。熊本弁で「自分ができる範囲で、できることをやりましょう」という意味。要するに、無理をしないでやりましょうということ。文字にすると、なんのこっちゃという感じだが、会話の中で聞くとなんとなく意味を理解することができるから、方言は不思議だ。
この言葉は写真家の「かなもとたいせい」と話をしている時に出てきた言葉だ。何故だかこの言葉が心に響いてしまった。彼は1961年9月に熊本県で生まれ、三池炭鉱の歓楽街で育った。19歳から福岡の大学で小児歯科を学んだという。
高校の合格祝いで一眼レフを買ってもらったのが写真を始めたきっかけで、飛行機の写真を大学時代まで撮っていた。結婚するとき結納返しでライカM6を買ってもらい、その頃からモノクロに興味を持ち始めた。その後、ローライを購入して、モノクロ写真にはまっていった。初めてプリントしたのは奥様のポートレートで、四つ切りだった。
彼はカメラ関係全般にとても詳しい。だから話をしているととても面白い。彼は今、あまりデジカメを使わない。その理由を、写真との距離感だと思う、と言っていた。私も講習会などで、写真と長く付き合っていくコツは写真といい距離感を保つことだと言っているが、彼の言う距離感にはカメラ自体も含まれているように聞こえた。カメラもレンズも100本以上所有している彼の言葉には説得力がある。人それぞれだと思うが、私もデジカメよりもフィルムカメラの方が自分に近いところにあると感じている。
彼はこうも言っていた。「写真界もデジタル化の流れでずいぶん変わってきた。写真は真実を後世に残すというとても大きな役割を持っていた。できる限り残すことができるように皆が努めてきた。しかし、今はデジタル化が進み、スマホの普及で画像も写真ということにすると、ネット上に流出していく画像を如何にして消していくことができるかということが奇しくも課題となってきている。フィルムカメラで撮ったものは全て記憶に残っているが、デジカメで撮ったものは記憶には残らず、メディアに記録されるだけだ」
優しい口調でこう続けた。「ただ、それも写真の面白さだと思う。写真の持つ役割や意味は時代によって絶えず変化してきた。それで良いと思う」。それを聞いて俺は勇気をもらった気がした。デジタル化を憂うのではなく、それを飲み込んだ上で写真を理解し、愛していくことが俺たちの役割なんだとあらためて考えさせられた。それこそ「でくるこつばでくるしこ」だ。
そんな彼の個展が8月14日から19日の間、小伝馬町のRoonee 247fineartで開催される。
「熊本から来たひと」
かなもとたいせい
中判モノクロ 大四切
www.roonee.jp